INTERVIEW

2020年7月にアルバム「SHIMNEY」をリリース煮ル果実と
同年8月にアルバム「ミゼラブル」をリリースしたjohn。
2019〜2020年を駆け抜けた二人のボカロPが、音楽について語り尽くします。

  • 僕がリリースした「ミゼラブル」を聴いた後に、改めて「SHIMNEY」を一通り聴きました。 まず1番に思ったのは「僕では作れないな」という事ですね。笑
  • ありがとうございます…で合ってるのかな笑
  • 「作れないな」という意図は色々あるんだけど、 まずはもちろんお互いルーツが違うって言うのもそうだし 楽曲の構築が木造と鉄筋くらい違うなと
  • なるほど笑
  • 例えが分かりづらい笑
  • ミゼラブル、僕も何周もしてるんですが 相変わらずユニークな音像と、歌謡曲的なメロディが 更にパワーアップしている印象を受けました。 これは僕にも作れない笑
  • ありがとうございます笑
    どっちが良い、という訳ではなく、 僕の曲はとにかく打ち込みが多くて、 「ここのこのタイミングにはこのシンセ」みたいなのが ループで毎回やってくるんです いわば”鉄筋コンクリート製”。 果実くんの音像はむしろ 「レコーディングしたその日にしか出なかった音じゃないかな」みたいな 偶然的な音の気持ち良さが良い塩梅に入ってて 「木」によって同じ設計図でも形を変える”木造”みたいだなと
  • 確かに、僕が音楽を作る時はその一期一会感は大事にしているかも。 シンセの使い方というのが、あまり自分の引き出しに無かったから それを黙々と使いこなしてるjohnくんの音は凄く勉強になります。 職人的な印象は少しあるかも。
    でも、決して機械的過ぎない感じが凄い。歌詞の人間臭さもあるからかな。
  • 「ボカロが歌う」と言うところの難しい塩梅ですよね、"機械ぽさ"。 元々は自分のネガティブな感情を出すことをコンセプトとしているので、 歌詞自体は意外とすんなり出てきます。笑 初音ミクというボーカル媒体は歌い方が「根明」なので、 暗い歌詞を歌うというそのギャップが結構好きです。
  • 確かに、分かるかも。 僕の場合は、歌詞に載せた感情が そのまま届くような気がしてv_flowerをよく使うんですが、 最近 初音ミクも結構ネガティブな歌は合うなと思い始めてました。 明るい声質が何処か自虐的というか…
  • 「自傷的」とも言うますかね、 明るい建前と暗い本音の二面性をうまく乗っけられる気がしますね。 しかもそれが人間ではなくボカロっていうのがさらに面白い。
  • johnくんの初音ミクといえば、凄く面白い調声してるよね。 タ行がすごい。
  • コメント欄でも常々言われている「ツァ行」ですね笑 「ツァ行」を使用するボカロPさんは何人かいて、 僕ももちろんそこらの先人のアイデアを頂戴してはいるんですが、 とあるリスナーの方が「"タ"と発音するより"ツァ"の方が口が小さく開かれて、 吐き捨てるように発音してる」という考察を見まして、 自分が「ツァ行」に惹かれているフワフワした部分が言語化されて腑に落ちた気がします。 果実くんのv_flowerの調声も少し滑舌が舌っ足らずというか、 独特な発音をしますね。なにかこだわりはあるんですか?
  • 僕の場合は、こだわりと言うか 自分が良いなと思ったようにその都度調声している感じですね。 詰まるところ完全に感覚。毎回この曲にはこのボーカルが合う、 という感じでパラメータを弄る。パズルしてるイメージかもしれない笑 独特と良く言われるんですが、特にこの調声じゃなきゃ駄目、 という風に気にしたことがないんですよね。 要するにここでも一期一会ですね笑 でも声について言及して貰えるのは、 知らずのうちに自分にしかない味が出ているのかなと感じたりして、 少し嬉しくなったりはしますね。
  • 先程の「木造と鉄筋」の話に戻るけど、 機械的であるボカロですらフリージャズのように作っているんですね。 僕はいつも決まったパラメータで打ち込んでいるので、 やっぱりどこか図面的ではある。笑
続いて2人はアルバムの楽曲について話してみました。
  • 今回の「SHIMNEY」は前作の「NOMAN」からさらに音像を広げている印象がありました。 鍵盤などを基調にした楽曲が増えていたり、沢山のボカロPが協力してくれてましたね。
  • ありがとうございます。
    自分の中でも今回の作品は、『NOMAN』のアンチテーゼ的な部分も有りつつ、 その先を目指した作品集でした。だからこそ、独りで黙々と作っていた世界とは違う、 コラボレーション的な色合いの作品も入れたかった。
  • 特に僕が好きなのが「ハイネとクライネ」です。元々「ドンツーミュージック」というコンピレーションアルバムに入っていた時は他に収録される曲とのバランスもあって「どっちかというとチル系な位置づけなのかな」と思っていましたが、アルバムを通して聴いてみると凄くポップなんですよね。このストリーミング時代に全体のコンセプティブがしっかり作れる人は素直に感心してしまいました。
  • ハイネとクライネはこのアルバムの中でも凄く大事な位置づけで、 歌詞も陰鬱な暗闇から希望ある光に向かっていく様子をイメージしてました。
  • 前トラックの「Bellboy」がすごく不安になるんですよね。笑 とにかく深海へ深海へと落とされていくような感じになる。 そこからハイネとクライネが手を差し伸べて水上に引っ張り上げてくれる感じがたまりません。
  • そういった題材をベースに曲を作るという意味では、 今回のミゼラブル収録曲もそうした作品が多かったようなイメージがあります。 その中でも僕は特に「diving」が気に入っていて、 歌詞には自身の弱さを認めつつ、執着とも言えるような生への強い想いが感じられました。 枯れた様な渋めのギターと軽快なトラックに載せて酔いしれてる感じが最高に格好良い。 johnくんは今回の自身のアルバムで気に入っている曲はありますか?
  • 「ミゼラブル」で一番気に入ってるのは「ヒガン」ですかね。 いまだに自分が飽きてない曲っていうのも珍しいのですが、 やっぱり歌詞に今の自分の精神性をうまく載せられたかなと。
  • 「ヒガン」良いですね。 ふとした時に口ずさんでしまってます。 何だか懐かしいメロディで、それと上手く自傷的な台詞が噛み合ってて 物悲しいけど横に揺れたくなる不思議な曲。
    johnくんの動画も印象的なキャラクターが出ますけど、 この曲のキャラクターは特にデザインが目立つ感じで、 凄く気に入ってそうとは思ってました笑
  • ヒガンのキャラクターは 今までとは比較にならないくらいファンアートがあって、 とても驚いてます。笑 僕自身もお気に入りのキャラです。
  • 歌詞を見ていると、全体的に「愛」という言葉が多く登場しているイメージでした。 渇望とまでは行かずとも、曲それぞれに居る主人公達が生きていく上で、 無意識に求めている物なのかもしれないと思いました。
  • 「愛」は「ミゼラブル」というアルバムの大きな芯となった気がしますね。 元々は怒りが大きなエネルギーとなった楽曲が多かったのですが、 怒りを爆発させた後に残るのは渇愛なのかもしれないなと。 友愛や博愛、隣人愛など様々な愛という関係性の「足りていない方」というのが 人間的に魅力的に見えたりもします。 「ミゼラブル」全般に言えるのが、 過去の「ANGRY DOG」「ROSE」に比べて生への執着が濃くなっています。 コロナという人間が人間的な生活ができなくなった時、 人々が耳にする曲は少しでも希望が見えたら良いなと思って制作していました。
  • コロナは色んな事を変えて、 僕達の生活や感情にも多大な影響を与えた。 そんなリアルタイムな想いが、 今回僕らのアルバムでエッセンス的に感じられるような気がしましたね。 作り方や音の組み立て方が違えど、確実に互いに通じ合って響く部分がある。
ボカロシーンの今後、2人の今後
  • 最近、VOCALOIDを主体にして活動していた人たちが、 本人歌唱したり歌い手さんとコラボしたり、 その他様々なプロジェクトでメジャーシーンにて活躍していますよね。 ネット主体の活動が結び付いて、 より広く色んな人達にリーチしてきたイメージがあります。 今回TOOBOEというプロジェクトを立ち上げられたのも、 表現の場を広げるという意味合いがあっての事だったんでしょうか。
  • VOCALOIDの文化は今やメジャーシーンを席巻する作家を沢山生み出しましたね。 VOCALOIDを使うという意義は常に考えていて、 今までもこれからも変わらずに初音ミクと共に楽曲を作っていければと思っていました。 あるドラマ(恋愛ドラマな恋がしたい)の主題歌として yamaさんへの楽曲を書いた時に、 その制作チームとjohnという媒体について話し合い、 TOOBOEというソロプロジェクトを作れば、 そのチームで色々と面白いことができるんじゃないかということで、 話がどんどん進み、現在に至ります。
  • VOCALOID好きの一人として、その潮流はとても嬉しいですね。 johnくんのVOCALOID楽曲もまだまだ沢山聴けそうな予感がしてます。 この界隈では、そういった繋がりから発展したり枝分かれしたりするのが良いですよね。 本来なら交わらなかったかもしれない人達が、 音楽を介してチームを組んで協力し、また新しい物を生み出していく。 どんな展開をしていくのか今から楽しみです。
  • VOCALOID制作というのはどこか1人で篭りがちなところがありますからね。笑 自分の音楽が自分以外の人たちと共に形を変えつつ作り上がっていくのは新鮮であり、 まだまだ慣れてないので奮闘しております。 果実くんも今年はリアルライブ企画していたりと、 新たなステージを目指しているのかなと思っております。 2つ目のアルバムを作り終えた今、何か展望はありますか?
  • ライブについてはどうしてもコロナ禍で難しい状況にはなりましたが、 悔やまずにきちんと今出来ること、 未来にやらなくてはならない事はしっかり見据えて行きたいですね。 アルバムが終わってすぐは抜け殻みたいになっていたのですが、 今は色々制作しています笑 様々な色味の作品を出すという「煮ル果実」本来のテーマに、 今一度真剣に向き合っていく事になるかなと思います。
  • アルバムごとに進化する煮ル果実くんをリアルタイムで体験できるのは すごく贅沢なことなのかもしれません。笑
  • 自身のストーリーとしてはまだ序盤だと思っているので、 今ある繋がりや作品を元に、誰も予想付かない事をしていけたらとは考えています。 他アーティストさんの楽曲提供についてもこれまで通り精力的にしていきたいです。 そのアーティストさんの今までに無かった新たな魅力や色を引き出せるきっかけ、 お手伝いが出来ればと考えています。
  • 2020年はボカロシーンと、僕たちクリエイターの頑張り時ですね。 楽曲提供でも個性を出せる芯の強さを僕も学んでいければと思います。
2人のクリエイターの話は終わらない…
Tooboe